日本語の文書に漢字を利用することの利点の一つは、造語能力が高いことです。明治時代、欧米文化を日本に取り込むとき、漢学の素養を生かして、外国語の訳語に膨大な数の和製漢字熟語が提案されました。漢字は表意文字ですので、読みが分からなくても、見れば意味はなんとなく分かります。利用の頻度が高い漢字熟語は、文章の前後関係から、正しい漢字を当てる約束が定まり、日本語の用語に繰り込まれ、辞書に載るようになります。耳で聞くときには不便を感じなくても、それを文字で表記するときに間違えることが起こります。ワードプロセッサに仮名漢字変換が利用できるようになって、例えば「人工衛星」が「人口衛生」と変換されていても、気が付かないことが起こっています。従来の和語になかった概念を、漢字熟語に提案できないことも増えています。仕方がないので、外国語の読みをカタカナ語で引用する表記方法を使います。意味を理解しなければならない実用文書では、説明が必要です。元の言語種類と、そのスペルが併記されていれば、何とか手掛かりがありますが、そうでないとお手上げです。したがって、日常の用語と距離のある専門用語を扱う文書を職人でも理解できるようにするには、用語説明(glossary)を必要とします。これらは、日本の言語文化を豊かにする、と好意的に見ることもあります。ところが、見栄を張って、意図的に、説明なしにカタカナ語を使い、ハイカラやインテリを気取る目立ちたがり屋も増えています。 |