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14. 実践的な作文教育

14.1 作文以前の一般教養


14.1.5 徳育の課題としての敬語

 第7.3.4項で、言葉が相手を傷つける武器にもなることについて触れました。直接の武力(ハードウエア)による威嚇ではなく、ソフトウエア的である言葉による攻撃も目立つようになり、日本だけでなく、世界的にも、世の中の温かみが薄れてきています。相手に対して何かの依頼をするとき、事務的・近代的・合理的な方法にこだわると、冷たい対応になります。幾らが不合理に見えても、相手との上質な対等関係を保つため、丁寧な言葉遣いをすることは、円滑な社会活動には潤滑油のような効果があります。そのとき、口先の言葉だけでなく、個人としての行動規範が問われます。これを教育の課題とすることが徳育です。徳育は、日本語では躾(しつけ、仕付けに宛てた和製漢字)が当たり、行儀と礼儀の二つの作法を身に付けさせます。本来は、家庭教育が基本です。集団としての教育には宗教も大きな影響を持ちます。徳育についての一般的な理解は、英語文化の影響を受けてマナーの用語が普及しました。注意することは、英語ではmannersと複数形で使います。単数形は、方法の意義です。徳育の規範は、英語ではethicsです。日本語では井上 哲次郎(1856 ? 1944)が倫理学の訳語を当てました。欧米文化の環境では、礼儀と行儀の区別が曖昧です。日本の環境では、礼儀は、相手がある場合の作法を意味し、行儀は自己修養的な作法です。帝王学は、長たる人が備えるべき最高位の徳育と考えるとよいでしょう。学校教育の場では、試験による客観的な評価の方法ができないことが混乱の原因になります。誉めることよりも、暴力的な禁止になり易いことが問題になります。
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