橋梁は、力学を応用する工業設計の分野でも非常に専門的です。その理由は、鉄道橋を例とすると、重量の大きな列車を、何も無い空間の上を安全に通行させることが目的だからです。構造物としての寸法も大きいので、自重も大きく、試しに作ってみて、具合が悪ければ作り直す、と言う試行錯誤的な個人作業ができません。形状を思い付きでデザインする前に、力学原理を踏まえて全体の安全性を計算しなければなりません。また、完成を見た橋梁も、維持管理が課題です。そこで、システム化された公共企業体が設計から維持管理までを扱います。個人的な協力は、設計法を工夫して提案する喜びがあります。その手順を、コンピュータのプログラミングに置き換えることが合理化であると速断するようになりました。そのプログラミングの文書は、コンピュータに理解させる特殊なプログラミング言語、例えばFORTRANやBASIC、で書きましたので、人が読んで中身の手順を理解する目的には向きません。このプログラミング文書は、日本語で書いた計算書の作成を目的とはしなくなりました。コード化したプログラム本体だけを残しておけば、専門的な設計の実務ができますので、設計技術のブラックボックス化と、知識の空洞化に繋がってしまいました。1950年代から高度経済成長の時代が約50年経過した21世紀に入って、橋梁の老朽化や耐荷力の不足が、社会問題になってきました。補修を含め、維持管理の対策には、元々の設計計算がどのように行われていたかの、眼に見える技術情報が必要です。ところが、古い手書きの計算書や図面が廃棄されて残っていないだけでなく、コンピュータ化が進み過ぎて、技術情報が全く無い事態が起こっています。したがって、現在供用されている橋梁の現地調査の手法と共に、人が読んで理解できる古典的な計算書を再現して、検討することが要望されるようになりました。 |