日常会話では、丁寧な質問に「よろしければ〜」「よろしかったら〜」の表現が良く使われます。両方の言い方を、通称で「れば・たら」文と言います。これは文学的な言い方ですので、実用文書では使いません。「れば」は、動詞の現在形であって、発話の時点では選択肢が決まっていません。「たら」は、「た」に過去形の意義があります。例えば「有ったら」と言うと、過去の時点で無かったことを言いますので、「無かったので」の結果説明の文です。英語表現ではifで始まる仮定文(if sentence)があります。文法的には条件文(conditional sentence)です。幾つかの条件をあらかじめ考えておいて、その中のどれかと一致したときの選択肢を決めます。条件が一つしかない場合がif文であって、2分岐の条件文です。複数の分岐先がある場合にも、2分岐を組み合わせることで解決できますので、プログラミング言語では基本的な命令語として使われています。口語文法で用言の説明に使う仮定形は、文語文法の已然形の用語を言い替えたものです(第10.4.6項参照)。ところが、これは最悪の用語になりました。例えば、「書かなければ(未然形の現在)」、「書いたら(連用形の書きの音便、仮定形の過去の意)」、「書くならば(連体形を使った仮定法)」、「書けば(いわゆる仮定形の現在)」、「書ければ(これも仮定形の現在ですが、可能動詞でもあります)」、「書けたら(いわゆる仮定形の過去ですが、可能動詞の仮定形とも取れます)」、などの使い方の区別が正確にできなくなりました。英語には時制として未来形があります(前章の表10.1参照)。ところが、日本語には未来時制がありません。このことは、日英または英日の翻訳のとき、多くの誤解と混乱とを起こすことになりました。 |