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11. 文章作法

11.2 技術文書は文学的表現を避ける


11.2.3 レトリックを使わない

 夏目漱石の「我が輩は猫である」と言う表現は、レトリック(修辞学的表現)、言い換えると論理学的には虚偽(ウソ)です。文法的(構文論的)には正しい表現ですが、意味論から言えば間違いです。猫がこのような発言をすることはあり得ないからです。文学的な言い方には、「私は猫です」「私、猫」でも許されるでしょう。英語に訳せば(I am a cat)です。しかし性別を考えるとオス猫の言い方です。フランス語ならばオス・メスで別の言い方になります。漢和辞典に載る、やや特殊な熟語は、その語の出所の説明があります。明治以降、日本で造語された漢字熟語には、その語を提案した学者が知られている場合があります。これらの学者は、漢学の素養がありましたので、造語には慎重でした。「情報」は森鴎外が使った「敵情報告」の、中2字の漢字並びに始まるとするのが定説です。商業出版物には、読者の眼を引くための文字遊びが使われることも見ます。奇才を示す言い換えや流行語もありますが、上品な表現は多くありません。「はじめての」「分かり易い」「易しい」「猫でも分かる」「猿でも分かる」などの見出しは、作者側または発行者側の論理です。真面目に考えると、読者に対して失礼です。

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