学者が提案した日本語の文法を受け売りすると、主語を限定する格助詞は「…が」であって、「…は」は機能的に異なる副助詞である、と説明があります。よく判りません。文としての使われ方を見ると、「…は」を受ける述部が、必ずしも主部の説明になっていない例があることに気が付きます。「象は鼻が長い」(第8.2.3項参照)と、この章の最初に例示した「私は犬が好きだ」は、構文論的に見れば、どちらも同じです。しかし、意味論的に見ると、「…が」は、全く異なった使い方になっています。「鼻が」と言うときは、主語が象であることを限定的に説明しています。「犬が」と言うときは、動詞「好きだ」の目的語になっていて、意味としては「犬を」です。「…が、」は、接続詞の使い方があり、標準は逆接の意義ですので、文をそこで切り、改めて文頭を「しかし」で置き換えることができます。ところが、順接の使い方も見られ、話し言葉では、口調を整えるように「犬もいますが、猫もいます」の言い方もします。書き言葉では、文単位を短く切ることを提案しますので、接続詞としての使い方を省き、独立した文単位として切り出します。「…が」を使って主語であることを示す文は、その主語に使う名詞を同類の他の名詞と区別し(排他的に)、強調する意義があります。「…は」は、これから説明したい主題を先頭に提示する意義があります。主語として使うこともします。その時は、述部が正しく主部を受ける表現になるようにします。主部を「…が」で始める文は、パラグラフ単位の文集合の先頭に使いません。「…が」を使う主語は、先行する文が既にあって、読者の立場で見れば、その主語が既知として理解できる意義があります。したがって、「…が」を主語とする文単位は、従属節として現れるのが標準です。これは、第10.1.2節で紹介した名詞の冠詞の使い方と対応しています。「…が」で引用する名詞は、既知の意義がありますので、英語ならば定冠詞を付けることに対応します。「…は」では、これから説明する名詞を受けますので、英語ならば不定冠詞を使うことの理屈に合います。 |