目次ページ 前ページ  次ページ

8. 作文希望と教育指導

8.2 日本語文法を見直して作文する


8.2.5 「である調」

 日本語の語順(word order)は、SOVです。相手に読んでもらう、または聴いてもらうことを意識しない場合は、用言(動詞と形容詞)の活用に終止形を使って文を終わらせます。日記・紀行文・記録を目的とした実用文に使う書き言葉に見られます。新聞紙面の文がそうです。相手を意識した話し言葉に使うと、ぶっきらぼうになりますので、それを和らげる文末の表現が「である調」と「です・ます調」の文体です。学校文法で言う形容動詞の終止形は、「…だ」ですが柔らかく言うとき「…である」の形で使います。「…である」の文形で有名になった文芸作品に、夏目漱石の「我が輩は猫である」があります。この文を英語に訳すと「I am a cat」です。この訳では、be動詞が「…である」に対応していることに注意します。英語は、形容詞単独を用言としませんので、例えば「桜の花は美しい」を英訳するときは、be動詞を追加した「The cherry flowers are beautiful」としなければなりません。また、逆向きに日本語訳を作るときは「桜の花は美しいのである」の言い方も見られます。このような書き言葉の全体を「である調」の文と言うようになりました。「である調」は、近代以降、漢文訓読法に替えて、標準的な書き言葉の文体として使われ、これを常体と言うようになりました。しかし、男性が主に書き、自己主張を意識しています。学術論文をまとめるときは、客観的な表現が要求されますが、その一つに文体を「である調」にすることを執筆要項に含めていることも見られます。読まされる側は、作者に対して、高圧的、権威主義的な人格を感じます。また、この文をそのまま声に出すと演説調になり、聴衆から浮いてしまいます。最近は、執筆者に女性が増えてきましたが、その文体に「である調」を強いることが不適切に感じられるようになってきました。

前ページ  次ページ