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8. 作文希望と教育指導

8.2 日本語文法を見直して作文する


8.2.3 「象は鼻が長い」の文法論争

 表題の文は、名詞二つ、助詞二つ、形容詞一つで構成されています。普通に読めば違和感を起こしませんが、それは文の意味論(semantics)の方を感覚的に理解しているからです。したがって、「鼻は象が長い」「象の鼻は長い」と言い換えても、正しく理解されます。しかし、統語論(syntax)から見れば不完全な文です。この構文違いの論旨は、構文をコンピュータで解析させるようになって明確に指摘できるようになりました。日本語では、文末に使う形容詞は、動詞と同じように活用に終止形があって述部を構成することができます。この約束を使うと、述部は「長い」か「鼻が長い」かの二通りの切り方があります。残った部分「象は鼻が」か「象は」が主部です。そうすると「象は鼻が」を主部と見なすことに違和感を起こすことが判ります。一方、「鼻が長い」を見ると、構造的には主部と述部とを持った、独立した最小文単位の節の構造を持っていて、「象は」を受ける述部と見なさなくても、独立した文です。つまり、統語論的に二通りの解釈が提案できます。と言うことは、翻って、元の文が不完全である、と判定します。そうであるなら、一意の文に直す提案が必要です。その一つの例は「象は鼻が長い動物である」と補うことです。この構文は「象は動物である」の定義文を基本文節とし、「鼻が長い」を形容詞句として「動物」を修飾しています。この構文は、英語で言えば、動物を先行詞とした関係代名詞の使い方に対応できます。

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