目次ページ 前ページ  次ページ

8. 作文希望と教育指導

8.1 作文の計画


8.1.2 作文は日記から始めることが多い

 作文は、書く材料を集めておくことが大切です。一般論を言えば、日本人は個人的に日記(diary)を書く人が多いようです。第二次世界大戦のとき、日本兵捕虜の持ち物や遺品に日記が多く残され、それが米軍の戦略情報に使われました。ドナルド・キーン(1922- )は、この日記に大きな感銘を受け、ひそかに保存して遺族に返す努力をしたそうです。日本は、季節ごとに特徴のある自然の景観を示します。農作業を始めとして、多くの行事は、天候の影響を受けます。個人的な行動の覚えとして、その日の天気を日記に書くことも素養の一つです。日付は、太陽暦の時代でも、潮の干満の時刻と関係のある陰暦が併用されています。近代化は、自然と向き合う場面を少なくし、人工的な周期に生活を組み込むようになりました。一日の終りに、その日の経過を記録する日記に代わって、これからの予定を書き込む手帳を使う方が普通になりました。戦後は信仰が自由になりましたので、大安・仏滅などを気にして行事予定の日取りを決めることも復活しました。多くの読者に読まれる文芸作品に刺激を受けて、自分も何かを書いて世間から注目されたいと思う人は多くいます。しかし、いざ書く段になると、筆が進まないのが現実です。文芸書・実用書どちらも、読む側に立って中身の感想を言うとき、好意的な批評よりも、一般に批判的な見方をします。教育的な見地からは、誉めることも大切です。批判をする場合は建設的な提案があるのが望ましく、添削と推敲とが重要です。筆者の経験を言うと、小学校時代の作文で、ある表現の個所に三重丸が付いて誉められたのが嬉しい記憶として今も残っています。逆に、若いときに、或るドイツ語の文献を訳して出版する計画があったとき「未だ書くべき年令ではない」と差し止められた経験もあります。その経験から得た結論は、「書く機会があったときに書くようにしないと、結果的に何も書けない」ことです。書いた草稿があって始めて、添削と推敲を具体的に進めることができます。

前ページ  次ページ