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7. 文章構成の学問的な扱い

7.5 言語教育の光と影


7.5.4 社会人に必要な作文教育がなかった

 日本の作文教育では、外国語に翻訳しても、国際的に通用する実用文書に構成する視点に欠けていました。欧米の作文教育は、事実と意見を峻別する書き方を初等教育の段階で基本として教えています。良く見られる例文には、「リンカーンは、アメリカ合衆国の第16代大統領です」と「リンカーンは、アメリカ合衆国の偉大な大統領です」の区別があります。前の文は、事実を言った文です。後の文は「偉大な」が話者の個人的な感情を交えた意見を言った文とみなします。高等教育の場では、上述の作文の基本を踏まえた上で、実用文書の書き方の(technical writing)の教科を選択することが義務化されているところもあります。この教育に一貫した筋道を付けるには、学問的な裏付けをもった文法教育を必要とします。日本語の研究では、ひとりよがり(独善)になる欠点もみられます。例えば橋本文吉の文法論を採用した現行の学校文法では、品詞の種類に形容動詞を立てています。これは、日本語を学ぶ外国人には評判が悪く、「ナ形容詞(例;静かな)」に分類し、一般的な形容詞を「イ形容詞(例;美しい)」と区別するようになりました。つまり、日本語の文法には、まだ多くの研究課題が残っています。

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