目次ページ  前ページ  次ページ

7. 文章構成の学問的な扱い

7.3 創造的活動としての作文


7.3.3 用語の意味と使い方を限定する

 文学的な表現を意識した作文は、個性的な言葉遣いを工夫することが評価されます。同じ人や物の名前を繰り返して言う場面では、言い方を変えることもします。欧米語では代名詞の使い方がそうです。言葉を聴く側、または読む側は、文の前後関係を論理的に判断して、言い方違いであっても、正しく一つの事象として理解します。しかし、実用文書の場合には、決めた用語を繰り返して使います。その用語をキーワード(keyword)と言います。既に慣用されていて意味が確定している場合以外は、特別な用語が現れたとき、その定義を用語説明(glossary)にまとめます。コンピュータを使うためのプログラミング言語では、この約束を厳格に守るように作文しないと、意図した正しい処理ができないことが起こります。文芸作品でも、キーワードを約束している例があります。俳句の歳時記に集められた季語がそうです。近代文芸として俳句が認められるようになったのは17世紀の松尾芭蕉(1644 ? 1694)からです。筆者の私見を言うと、芭蕉の「奥の細道」は紀行文です。その節目ごとに、俳句が文の中身を要約する形式になっています。したがって、俳句だけを取り出すと、何を言っているのかが読者に判らないことがあります。俳句は、主語述語を備えた言語学的な意味での文表現にならないことが多くなります。俳句を趣味とする人は、自分の作品を他の人に読んでもらって共感してもらうことに喜びを見出します。文字数が少ないので、作者と読者が共通した連想ができるように用語を吟味し、それを勉強しておくことを強制しますので迷惑に場面も起こります。このときの用語の代表が季語だからです。

前ページ  次ページ