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6. 書物の体裁と保存 |
6.3 文書管理の実際 |
6.3.5 作業環境の設計 |
![]() この連載の第1章、1.1.3項で、倉庫の空間を別に設ける習慣が必要であることに触れました。複数の人が大きな部屋で個別に作業をすることと、個室で閉鎖的な作業をすることとは、管理上、一長一短があります。一般論を言えば、企業の作業環境は公的な性格を持つ場ですので、私的な占有空間の使い方をするべきではありません。しかし、書棚やロッカーなどを間仕切りに使って、中が見えないように閉じこもる空間を持ちたがるのも普通に見られます。筆者は教育環境にいましたので、複数の学生が共用する研究室をどのように設計するかの工夫が必要でした。図6.1は、その一例です。引き出しの多い普通の事務机を使うことを避けて、壁面に組み立て式の書架とキャレルデスクを並べ、部屋の中央に大きな寸法の机が入る広い空間が残るようにしました。ロッカーは準備しましたが、私物を保存するキャビネット類の家具は、意図的に使いませんでした。共用する図書や参考資料は、書棚の上の方を使って見えるように並べます。つまり開架式です。机の面積は狭いのですが、普通の事務所では、机の半分が書類置き場になっていることと比較すれば分かるように、下の書棚の私用ができます。 机と書棚をセットに構成する独立した家具は、小学校に入学するときの勉強机のデザインに見られます。図6.1は、そのデザインと考え方は同じですが、引き出しの数と容積を最小限に抑えます。これは、物品が見えない保存空間ができることを避けるためです。学校建物は、公共的な性格を持つことを考え、建物全体をシステム的に構成することを踏まえます。それは、私物を保存するロッカーと、アーカイブ的な管理をする図書や物品を保存する部屋、つまり倉庫の空間、を別にします。ロッカーについて言うと、欧米風のホテルや劇場などは、クローク(cloakroom)があるのが普通です。日本のレストランでは、手荷物を置くときに、空いた椅子を使わなければならない不便があります。この習慣の相違は、倉庫の空間を意識しているか否かと関係しています。 |
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