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1. 日本も開発途上国であった

1.3 横書き文書の衝撃


1.3.4 数学関数は数表を必要とした

 代数式を使って計算手順を説明する文書は、職人レベルの人たちには理解が難しいのです。その理由は、英語と数学の知識を必要とするからです。単純な四則演算(+−×÷)だけを使った式であれば、庶民レベルの知識で理解できますし、実際計算に応用できます。しかし、三角関数、対数関数、指数関数などを含む数式が提案されるとお手上げです。数学を勉強してきた技術者が計算に当たる場合、これらの数学関数の数値は、数表を参考にしました。この数表も、多くを輸入図書に頼りました。構造物の設計では力学計算を踏まえて材料の寸法を決めるのですが、この計算式に、できるだけ数学関数を使わない式が提案されました。この点に関しては、最近の設計示方書は、権威主義的で無神経になり、数学関数を平気で使うことをみるようになりました。前出第1.2.4項で説明した吉田徳次郎の著作では、計算式の殆んどが四則演算で紹介されています。ただし、例外的に平方根に開く計算は使っています。三次方程式を解く場合があるのですが、やや特殊ですので説明があります。吉田の著作には数学関数などを一切使わないことが、学問が無いと言う批判の根拠のようでした。

  コラム5:戦前の絵葉書の説明は右横書きであった

[解説]  明治後期から大正、昭和のはじめにかけて、各地の名所旧跡などを絵葉書で紹介することが一種の流行でした。これらは、その場所、その年代での歴史を記録した文書としての価値があります。とりわけ、戦前の都市景観の絵葉書は貴重な記録です。例図に示した日光の神橋を題材とした絵葉書は何種類も発行されています。ここで紹介したものは戦前のものです。注目したいのは、説明文が右横書きになっていることです。また、文体も漢文訓読法です。文字並びを右から書く横書きは、漢字の縦書きの特殊な応用であって、一文字一列で並べた形式です。この書き方は、記念碑の表題、四文字の漢詩熟語の表額、商店の横書き看板などに普通に見られました。戦後に発行された絵葉書の説明文は、左からの横書きになっています。なお、江戸末期の浮世絵を絵葉書にしたものは、外国人向けに書店で販売されています。もともと浮世絵は、手軽なお土産として利用されていましたので、絵ハガキの前身の性格があると考えることができます。

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