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1. 日本も開発途上国であった

1.2 工業製図法の衝撃


1.2.7 図学と製図技術との対立

 図面は、職人同士の間で情報交換に使う文書です。作図技術は必要ですが、必ずしも学問にこだわりません。したがって、製図は、実用技術の教育項目として扱われました。土木構造物の計画と設計では、紙ではなく、大地と言う大きな対象に作図する作業を踏まえます。こちらは測量術と呼ばれます。半径の大きな円形の座標位置を決めるときは、コンパスを使う方法が使えませんので、実用技術としての曲線設置法を使います。そもそも、幾何を数学の一分野に位置づけるようになったのは、数学史的に見れば最近です。筆者の中学時代、代数と幾何とは別教科でした。幾何に代数学的な方法論を導入したのはデカルト(Descartes; 1596-1650)に始まるとされ、座標幾何学または解析幾何学と呼びます。図学は、graphics scienceとして研究されました。しかし、モンジュの時代、座標系の扱いは未熟でした。幾何を実用技術として扱うには、図形の性質を数値に置き換えて理解するのですが、これには大変な数値計算の労力が掛かりました。代数学的に扱う三角関数は、例えば、sin(x)と書いて済ますことをします。数値を扱うとなると、角度のxを、度にするか、ラジアンにするかで、一騒動が起こります。コンピュータを利用できるようになって、幾何に関係する数値計算技術に、計算幾何学(computational geometry)の用語が使われるようになりました。学問的な方法論を正当化する論理には、物事の真理や原理を究めると言いますが、都合の良い部分を取り出して、つまみ食いをします。用語として、抽象捨象と言うのがそうです。事故や災害が発生したとき、原因予測が想定外であったと説明することに対して、社会から反発が起きました。これは、都合の悪いことを取り上げなかった捨象の判断に対する、学者風の、我儘で思い上がった態度での言い訳と受け取られたからでした。

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