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1. 日本も開発途上国であった

1.2 工業製図法の衝撃


1.2.4 実用主義と権威主義との対立

 第三角法と第一角法との対立は、科学技術全体について、英米流の実用主義(プラグマティズム)と、ヨーロッパ流の権威主義(アカデミズム;理論主導主義:官学風)のどちらを原則にするかの選択例です。一面では不幸な対立を日本にもたらしました。技術は、試行錯誤を重ねて知識と経験を積みます。実用主義の場合には、考えられるあらゆるケースを総当たり的に調べます。これは無駄も多いので、何かの学問的理論で予測して、実験範囲を絞り込む方法も取られます。どちらの方法も一長一短があります。日本のコンクリート工学の基礎を築いたのは吉田徳次郎(1888−1960)です。アメリカで学び、徹底的な実験重視の研究をしました。吉田の研究態度に対して、一部の学者は、「学問的な方法論に欠ける」と軽蔑しました。しかし、吉田の著作は、現場の技術者から圧倒的な評価を得ていました。学者主導型で技術を進めるとき、権威主義的になることがあって、実務の立場からは迷惑になることも少なくありません。評判の悪い最近の例には、構造物の設計荷重をSI単位系に準拠するように、ニュートン単位の採用提案があります。宇宙構造物などは、この単位系を使う構造計算は意味があります。しかし、土木構造物は地球上に建設されます。重力の加速度は、場所によって違いがあるにしても、実用の範囲では一定として充分正確です。設計は材料の積算計算が重要ですので、重量単位を変更してニュートン単位に換算する荷重計算が入るのは鬱陶しい限りです。

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