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1. 日本も開発途上国であった

1.2 工業製図法の衝撃


1.2.2 用器画と自由画

 文字や図を描く道具として、明治までの日本では、筆が普通でした。欧米では文字書きにはペンが使われ、ペン先に種々の幅を選ぶことで、線幅を書き分けました。図は油絵の場合には筆が使われました。製図用具としてカラス口(くち)があって、線幅を正確に一定に保って、長い線を引くことができます。カラス口に代わって、現在は種々の直径のインクペンが発売されています。定規やコンパスなど、幾何学的に正確に図形を描くために種々の製図用具を使います。この技法で描かれる図を用器画と言い、特に道具を使わない自由画とは区別しました。絵を上手に描くには才能も必要です。コンパスを使わなくても、幾何学的に正確な円が描けることは、一種の技能評価の方法です。日本の漫画は、鳥獣戯画から北斎漫画までの伝統の上に、国際的にも評価された庶民文化として認められるようになりました。しかし、工業製図法は、日本にとっては全く新しい技術でしたし、技能も必要ですので、近代工業教育の主題の一つとして扱われました。筆者の学生時代、理科系を志望するとき、製図を苦手とする人は、土木・建築・機械系の専門過程を選ぶことを敬遠しました。

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