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1. 日本も開発途上国であった

1.1 文明開化の経緯


1.1.6 前例がない場合にどうするか

 構造物の設計作業は、未だ現実に存在していない形状を頭の中で想像し、別の作業者に理解してもらうため、図や文書にまとめることです。単独で仕事をする芸術活動は、何も準備作業をしないか、簡単な下書き(デッサン:dessin、素描)を描いて、造形作業を直接始めることもします。共同作業が必要であるときは、協力者に理解してもらう方法が必要です。これには、図だけでなく、摸型も利用します。コンピュータグラフィックスの応用も普及しました。開発途上国の場合は、先進国の前例を真似ることができますので、文書を残さなくても済みます。反対に、独創的な設計開発をする先進国の立場になると、自前の文書情報を記録して保存することを意識しなければ、折角開発した技術が伝承されません。そこで、具体的に文書情報をまとめることの教育が必要になる、という筋書きになります。技術文書の書き方についても、欧米に多くを学ぶ必要がありました。これらは、技術の基礎的な教養として、どこかで知識や技能を埋めておく必要があります。日本の伝統技術になかったことで、欧米技術の手法が革命的であった分野は、工業製図の描き方と、数式に書いて計算手順の説明をする文書の書き方です。コンピュータの利用も、積極的に研究されました。これは、設計作業を省力化し、近代化する希望を持って取り組んだのでした。しかし、意識的に技術を秘密化すると、中身のブラックボックス化に進みます。結果的には、技術の中身が分からなくても、小学生にコンピュータの扱いができれば、専門家なみの設計ができます。これが、技術の空洞化に繋がります。情報公開の際に、知的所有権の尊重が大切です。秘密化は、進歩の芽を摘みますので、バランスが難しいのです。

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