図1.1 ボスニアのモスタル橋: 1921年の写真
(アルベール・カーンより)
技術の伝承では、眼に見える実物見本があれば、真似ができますので、或るレベルまでの再現ができます。文書情報が無くても、職人レベルの経験で、何とかなることもあります。しかし、微妙な勘所は、分からずじまいになります。伊勢神宮の、式年遷宮と宇治橋の架け替えは、技術伝承の行事として20年ごとに行われます。この年数は、橋の木材が腐食するまでの期間と、親子三代が技術を引き継ぎができる年代間隔を考えると、合理的です。これより期間が長くなると、幾らか困難が発生します。岩国の錦帯橋は、敗戦後の1950年、一部流失して再建されましたが、その後、2001年の補修まで50年も間隔が空いたため、大工さんの技能伝承に手さぐり的な研究が必要であったようです。戦争は、歴史的な石造建築物にも大きな被害をもたらします。この復興では、残された瓦礫をジクソーパズルのピースのように丹念に組み合わせて復元した例を多く見ます。例えば、ボスニアのモスタル橋(1566年創建)は、内戦(1993)で破壊され、2004年に再建されました(図1.1)。このときの参考資料は、図面が無くても、記憶の補助に加えて、破壊前の写真が利用されました。木造建築は、見本にしたくとも、火災で実体そのものが消滅することが起こります。そうであると、古い材料の再利用も考えた復元ではなく、新規の建設と同じです。 |