技術移転の話しに戻ります。その中身には、人の交流も考えます。海外の開発途上国の技術援助に単身で出向くことを考えたとき、身近な道具と文書に、何を持っていけばよいかについて、明確な意識が必要です。インターネットを介して情報が得られる時代では、パソコンを真っ先に考えます。しかし、電卓すら使えない環境で技術指導ができるには、本人の経験だけが頼りです。先方は、眼に見える器材(ハードウエア)を有り難がり、次いで取り扱い説明書(ソフトウエア)を欲しがります。この二種類があればすべて巧く行くと相手は思うことが多いのですが、やってみると予想通りにはならないことが起こります。このとき、相手側は「未だ何かを隠している」と疑うことがあります。これは、大部分がノウハウ的な技能に属することですので、職人同士の個人的な経験を介することで納得が得られます。この部分も文書化してコンピュータに肩代わりさせようとする研究課題が、人工知能、さらにはエクスパートシステムです。しかし、期待したほどの成果は得られません。技能についての相互理解が深まれば、技術移転は成功したと判断できます。技術移転が成功する鍵は、技能を持つ職人を敬愛する環境が育つことにあります。 |