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1. 日本も開発途上国であった

1.1 文明開化の経緯


1.1.2 技術移転は教えることであること

 教育は、自分がどのような過程で知識を覚えたかの経験を、次の世代に伝えることの意義があります。一方、技術移転(technology transfer)の用語があります。この言葉自体は、開発途上国が必要とする設備・器材・文書情報などの支援と共に技能教育を含み、政府開発援助ODA(Official Development Assistance)の活動に関連して使われるようになりました。日本が先進国として扱われるようになって、学ぶ側から教える側に立って国際協力をする工夫が必要になってきました。外国人留学生を迎え入れることもそうです。ところで、日本国内の教育も、技術移転の性格を持ち、技術伝承とも言います。そのまま技術移転に利用できそうなのですが、そう単純には行かない問題があることも分かってきました。それは、日本国内での技術の空洞化と言う深刻な問題が起きているからであって、国内向けの技術教育がうまく機能しなくなっていることです。そこで、明治維新以降、欧米技術に学んできた経過をおさらいしてみると、問題の解決についてのヒントが分かってきます。その一つが、後の人に理解してもらうことを目的とした、丁寧な文書記録の保存と再利用です。我々の先達は、ソフトウエアを欧米文献で学びました。しかし、必要充分な情報を自前の文書として残し、それを再利用することのノウハウについては、多くを学びませんでした。それは、公的文書を保存するとことに積極的ではなかった官僚的な体質が大きく影響しました。情報処理技術が進み、アーカイブ(archives)の用語を最近よく見るようになりました。英和辞書では公文書館と当てられています。しかし、その実体がどのようなものかについて、日本では、 ライブラリ(図書館:library)ほどの馴染みも理解もありませんでした。結果として、技術移転の参考に使う公共構造物の設計資料などを保存する習慣が育ちませんでした。

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