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1. 日本も開発途上国であった

1.1 文明開化の経緯


1.1.1 近代化は真似から始まった

 明治維新(1868)は、遥か昔の歴史のように思うでしょう。しかし、日本全体の近代国家化への過程を見ると、現在までの、ほんの150年の間の変化があまりにも大きかったので、それまでの時代の流れと比較すれば、何倍もの量の歴史事象が短い年数に詰まっています。現代は、主として紙を媒体とした情報が氾濫しています。明治維新前までは、庶民レベルで流通する文書情報が少なかったので、近代史的に見れば、情報の暗黒時代でした。明治政府が進めた近代化は、欧米に学ぶことで短期間に大きな効果が得られました。「学ぶ」と言うのは、「真似ぶ」が転じた言葉です。日本の近代化の成果は、欧米諸国だけでなく、近隣諸国からも奇跡として評価されました。実を言えば、欧米に学んでも、それを理解して自分のものにすることができるには、文化的な下地が必要です。問題を技術に限るとき、技術には三つの要素を考えます。道具・技法・技能です。現代風に言えば、ハードウエア・ソフトウエア、そしてインターフェースです。欧米における産業革命の成果を学ぶ方法は、最初、ハードウエアとしての製品の直輸入でした。次いで、ソフトウエアとしての図面や文書を理解して国産化の努力をしました。さらに、日本からは優秀な人材を留学させ、欧米からは著名な人材を「お雇い外国人」として招いて、直接の指導を仰ぐ人材交流が大きな成果を上げたのでした。これはノウハウを学ぶインターフェースの場を設けたことに当たり、明治政府の賢明な判断でした。

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