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12. 三次元的に扱う弾性問題

12.1 経験で得られた知識


12.1.1 三軸圧縮応力状態では強度が上がる

 部材の設計に、積極的に三次元的な応力状態の解析をする例は多くありません。経験的に知られていることは、柱を三軸圧縮応力状態にすると、強度が上がることです。木材の柱は、大きな軸方向の荷重を受けると縦割れを起こします。そのため、金具で巻いて横方向の膨らみを抑える例を見ます。鉄筋コンクリートの柱の細部構造では、断面の周に軸方向鉄筋を配置し、それを帯鉄筋で束ねるようにして横方向の膨らみを抑えます。帯鉄筋の配置が適切でないと、軸方向の鉄筋が篭をつぶしたように膨らみ、中身のコンクリートが飛び出し、柱が圧壊します。鉄筋コンクリート造のビルが地震時に崩壊するときに見られます。プレストレスコンクリートの柱や梁は、全体を篭状に構成する普通鉄筋の量を多くすることで、軸方向に大きなプレストレスを加えることができます。これらのコンクリート部材の表面は、その面に垂直な方向の応力度が0になっています。大きな応力が作用するとき、篭状に組んだ鉄筋の外側コンクリートで、かぶりに当たる部分が剥がれる破壊が先に起きます。この部分が三軸圧縮応力状態にないからです。山はねも同じ原理の破壊です。支圧は、或る狭い範囲に大きな圧縮荷重が作用するときを言うのですが、その範囲の外側が抑えの横方向の圧縮応力度として作用する効果が発生し、結果的に大きな支圧応力度に耐えます。ただし、大きな支圧応力度の作用面の境界では、局部的に剪断応力度が大きくなって凹みが生じ、さらにはパンチのような押し抜き剪断破壊が生じます。支圧の許容応力度を決めるときは、平均的な圧縮の許容応力度の1.5ないし2倍を超えないようにします。道路の舗装は、大きな集中荷重を分散させて、構造部材本体の支圧応力度が大きくならないようにする目的があります。砂や砂利は、それ自体は弾性体ではないのですが、舗装材の使い方をして、その下に作用する地盤への支圧応力度を低める目的があります。鉄道の砂利道床もそうです。伝統的な日本建築は、柱の直下に大きめの礎石を置きます。その下に砂利や玉石を敷き詰め、よいとまけで固める作業をして柱の荷重を地盤に分散させます。古い巨木建築の遺構は、礎石を含めた基礎部分が他より丈夫な構造になっていますので、柱の位置が発見されます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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