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11. 数理弾性学

11.2 均質な弾性体の解析モデル


11.2.4 梁の解析に使うグリーン関数

 弾性体に力(応力度)が作用すると変形 (歪み)が一意に決まり、複数の解がないことは、実は非常に重要な原理です。この逆に、変形が観察されれば、作用している力も決まります。例外が、圧縮を受ける柱の座屈です(第5章5.4節参照)。11.1.3節で、線形理論の盲点と表現したのは、仮想の変形を考えなければならないからです。解が一意に決まると言う関係を数学的に表すときは、力と変数との関係を表す何かの関数形が定まっていることを意味しています。力をベクトル的な成分としての集中力として或る作用点に加え、注目している点の変形を、これもベクトル成分とすると、或る個数の注目点全体の力と変形の関係は、実用的にはマトリックスで表すことができます。これは、第4章、式(4.1)に示したマトリックスがその一例です。梁のような連続体を考えるとき、撓みを求める注目点は梁の連続座標位置xであり、単位の集中荷重が梁の上を移動するときの荷重位置x’との二つの連続変数を決めて注目点の撓みyを求めます。概念式はy=(x,x’)と表記することにします。任意の荷重p(x’)が作用するときの梁の変形は、解析原理的には、積分方程式の形で計算します。
   
 式 (11.1)の形で考えるG(x,x’)をグリーン関数(G.Green,1793-1841)と言います。構造工学の参考書や公式集には種々の条件での解が載っています。これらは、解析的に言えばグリーン関数の種々の解を実用式で示した、と解釈するのがよいでしょう。解析的に整理するときは、xとx’とを入れ替えても同じ式になる対称性があるように整理します。これが、構造力学での相反作用の法則に当たります。なお、荷重p(x’)を集中荷重とすると、これはx=x’のときだけ1で、x≠x’であれば0となる特別の関数ですが、これをディラック(P.A.M.Dirac,1902-1984)のデルタ関数(δ関数)と言います。単純梁の場合の数値計算に応用するときは、フーリエ級数による展開式が使えます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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