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11. 数理弾性学

11.1 弾性体の数学モデル


11.1.1 理論と実用との使い分けが問題になる

 我々の身近に見られる構造物、例えば、木造の住宅建築は、梁と柱のような部材を組み合わせて重さを支えています。外から見ている限りでは、部材に作用している力の大きさと分布は全く分かりません。変形する、さらには破壊するのは、力の作用によって眼に見えるようになった現象です。これから逆に、部材内部に作用している力の大きさを推定することを研究し、その知見を合理的な部材の使い方の提案に応用します。この研究の道具として、現代では実験と数学的解析を応用しています。しかし、単純な構造物は昔から建設されていますし、理論的な知識なしでも、経験的に部材の安全な使い方がされてきました。材料の積算など、材料の寸法と重量の計算は必要です。それも単純な算術を使う程度で済ますことができます。形状を扱うとなると幾何の知識が必要です。これにも計算技術を使います。しかし、やや特殊な三角関数の概念は古くからあったにしても、理解はかなり難しいものです。より寸法の大きな構造物を建設したいときは、今までの寸法から段階的に大きな寸法の材料を使う経験を踏まえます。数値を直接扱わないで、記号を使った算法、つまり代数学を応用すれば、実物を作る前にかなり合理的な推定ができますので、従来の経験がなくても、新しい構造物の設計提案ができます。18世紀以降、重量の大きな列車を渡す目的に、現代からみても巨大な構造物が建設されてきました。その設計理論を支えたのが応用力学(applied mechanics)です。一般に言う力学(mechanics)は、物理学(physics)の一分野です。その範囲は、主に、力と運動の関係を扱います。構造物と直接向き合う力と変形を扱う材料力学は、実学に分類します。構造物の設計技術にまで落とすときには、理論を使い易い提案式にまで噛み砕かないと実用になりません。実務から見れば遠回りにみえますが、理論的な扱いについて、一通りの常識を埋めておくことが大切です。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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