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10. 衝撃・振動・疲労

10.3 疲労破壊の全体概念


10.3.1 疲労破壊の予兆は亀裂から

 材料が利用できなくなる原因としては、化学的な腐食などの原因による劣化もあります。材料力学の課題は、力の伝達機能が損なわれる破壊か、または、変形が大きくなることを扱います。変形が大きくなる現象は外見から発見できますので、全体の破壊が起きる前に対策を立てることができます。予測が難しい、突然起こるような破壊は、脆性材料に見られます。弾性材料の疲労による破壊は、脆性破壊と似た現象で起きます。疲労破壊の予兆は、局部的な小さな亀裂の発生で発見されます。これは材料が部分的に変質して脆性化した個所が起点になります。この状態では、未だ全体として大きな変形を起こしていません。亀裂が進行して全体が破壊するまでに幾らかの時間的な余裕があると、その間に安全の対策を取ることができます。腐食し易い環境では亀裂の進行が早まることも知られています。しかし、亀裂の発生が見えない個所にあると、全体破壊が突然起こる怖さがあります。構造用鋼材自体は引張破断するまでに大きな塑性変形を示す材料ですが、溶接部や応力集中が有る個所が局部的に脆性的な性質になり易いことから、そこから亀裂を起こします。他の個所が未だ塑性的であると、亀裂の進行が局部的に留まるか、ゆっくりと進行します。鋼の鉄道橋では、列車もろとも、落橋する事故は殆ど起きていません。菊池洋一(談)によると、鋼桁の実験室での疲労実験から類推して、眼に見える亀裂の発生から全体破断までに、実際の列車運行では少なくとも一カ月以上の余裕になるそうです。その間に、橋梁を通行する列車の乗務員などから、何かの異常音がする、などと保線掛に連格が入りますので、そこで亀裂が発見されて対策が取れるから、と想像できるからです。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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