振動の性質を、質点単独ではなく、全体を見通せば、隣接する質点間で力の受け渡しと相対的な変位が観察されます。これは時間差を伴って伝わります。つまり波動です。波動には縦波と横波の区別があって、速度があります。質点の並び方向に振動が伝わるとして、質点の振動方向が並び方向であるのが縦波、直角方向が横波です。縦波の方は、材料内部を音として伝わる性質ですが、横波は少し複雑です。地震動の場合、縦波はP波と言い、横波については境界条件によって表れ方に幾つかの呼び名があります(S波、ラブ波、レイリー波)。梁の曲げ振動は横波です。波動としての性質は、どの向きの曲げを考えるかの区別と、梁の境界条件によっても変ります。橋梁の上下方向振動の場合には、波動の速度として約200m/secが実測値を良く説明できることが分かってきました。例えば、1000m級の長大吊橋の場合には、支間一往復に約10秒かかります。この周期に相当する固有振動モードは、吊橋全体として一波形の振動モードに当たるのですが、このモードの変形が観察されることはありません。振動測定をして、振動データをフーリエ解析すると、周期10秒の固有値も計算されます。実は、パルス状の波形が支間を往復すると、固有振動のフーリエ級数解が連続的に得られます。そのすべてが実の振動波形と対応するのではありません。これを用語としては、固有振動数と卓越振動数と言い分けます。固有振動数は、数学的に無限に多く存在します。卓越振動数が、実際現象として意味を持つデータであって、幾つもある固有振動数のごく一部です。この同定には、相関解析を併用して判断することが適しています。
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