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9. 材料の破壊と部材の破壊

9.1 材料試験の計画と結果の見方


9.1.8 構造用鋼材が示す特異な性質

図 9.2 軟鋼の引張試験のグラフ         図 9.3 理想的な金属材料

 鉄は、強度に期待するだけでなく、電磁気材料などにも使われる、用途の広い金属材料です。その性質は、化学的な他成分の割合、熱処理、結晶成分の構成や配列、などに影響されて多様です。一般的な構造物に使われる鋼材料は、ほどほどの強度と共に、製作・架設作業を考えて仕様が決められています。強度が大き過ぎれば、工場での機械加工を特別に計画しなければなりません。加工には、或る程度の伸び、つまり塑性変形能が必要です。その大きさは、引張試験をして、約20%が要求仕様です。なお、母材と同程度の強度が保証できる溶接ができないと、複雑な構造構成ができません。構造用鋼材の処女材料の引張試験をすると、図9.2のような応力度・歪み曲線を試験機のレコーダが描きます。降服点に達すると、試験機の荷重が僅かに下がり、塑性変形が起こったことが分かります。さらに強制的に変位を増加させると、荷重が上がって行き、最大荷重を幾らか過ぎたところで破断します。この試験の途中で、荷重を抜くと、図9.2の点線のような弾性的な力と変形の道筋を取り、歪みが0には戻りません。再び荷重を加えていくと、点線にそって帰り、道草を食ったように、残りの応力度・歪み曲線を辿ります。道草の行き帰りは、弾性的な性質を示します。この性質を利用すると、同じ材料であっても、降服点の高い部材が得られます。しかし、伸びが犠牲になります。鋼の線材は、引き抜きと言う引張加工をして製作しますが、この線材は、材料内部の結晶構造の配列が変って、降服点が上がり、強度も上がります。これは鋼材固有の性質であって、他の材料、例えばアルミニューム材では見られません。アルミニュームの力と変形の関係は、模式的に示すと、図9.3のような、降服点を超えると平らな塑性変形を描きます。この性質のため、アルミニュームの棒や線材は、押し出し加工で製作されます。鋼材の場合にも、強度を計算するモデルは、図9.3の力学モデルを仮定し、これをもとに部材としての応力・変形のモデルを立て、設計に応用します。これが塑性設計です。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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