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9. 材料の破壊と部材の破壊

9.1 材料試験の計画と結果の見方


9.1.6 破壊と崩壊の定義

 漢語の破壊 (destruction, wreck)は、種々の場面で使われる普通の用語です。材料力学で使う場合は、を伝える目的に使っていた耐力機能が低くなるか、変形が大きくなって元に戻らなくて、役に立たなくなる状態を指し、英語はfailureです。力と変形の範囲が材料の弾性範囲を超えるときを、破壊の始まりとします。破壊の現れ方は、荷重の加え方と、材料の形状や寸法などに関係した材料内部の応力度の分布によって変ります。細長い試験片を使う引張試験は、最も分かり易い破壊を示します。鋼材の引張試験をすると、或る応力度を超えると、荷重を抜いても伸びが元に戻らなくなります。これを降伏点(yield point)と言います(図9.2参照)。荷重に対して、まだ、そこそこの抵抗力は残っています。実際の構造物の部材では、変形もそれほど進んでいなければ、応急処置か、修理の対策ができます。しかし、破断は変形が無限大になることですし、力を伝える機能も完全に失われます。これには漢語の崩壊(collapse)を当てます。崩壊は、応急的な対策も、元に戻す修理すらできない破壊の意味を持ちます。一方、高さの低い圧縮材で圧縮試験をすると、圧縮によって断面積が増え、潰れても、高さ全体が無くなる変形を起こしません。また、圧縮力も大きくなります。圧縮力を伝える機能も残っていれば、崩壊とは言い難いところです。これは部材としての話しです。構造物は部材を組み合わせます。これを構造システムと見ることもします。このシステムで、どこかの構成部材が破壊したとき、全体システムとして機能の低下で済み、修理が可能な破壊と、機能が失われる崩壊に進む場合とがあります。構造物の安全性を議論するとき、最も恐れられるのが崩壊の方です。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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