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9. 材料の破壊と部材の破壊

9.1 材料試験の計画と結果の見方


9.1.1 材料試験をする意義を理解しておく

 材料力学は、実際の材料の強度試験を元に、その結果を応用して材料の合理的な使い方を提案する学問です。強度を測定する実験法と実験技術を踏まえた上で、実験結果を説明する力学モデルを考えます。この力学モデルは、理論的な扱いを便利にする仮説です。先入観的な理論が先にあって、それで実験結果を説明したいとするのは、天動説のような、言わば宗教的な思い込みであって、科学的態度ではありません。なるべく先入観なしに実験をし、注意深く観察することが基本です。その道具として、精密な強度試験機の製作、実験法、結果の解析法が研究されてきました。欧米の科学技術に多くを学んだ時代、実験の手間を省いて、既に提案された知見を利用することができました。実験的な研究は、言わば汚れ仕事が多くなります。材料力学の研究は、強度の現れ方の方に主眼を置きますが、広く、材料に関する科学一般は、実験技術の研究開発の上に成り立っています。若い研究者は、材料と生で付き合う実験研究を敬遠し、机の上で作業するコンピュータの利用が研究であると錯覚する傾向があります。コンピュータの利用知識も一つの素養として弁えた上で、実験研究にもっと興味を持ってもらいたいところです。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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