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5. 弾性的性質の数学モデル

5.4 柱の座屈の現れ方


5.4.7 設計示方書への反映

 この項は、筆者の私見です。一般論を言うと、設計提案に使う式は、実験結果と理論的な根拠とを踏まえるのですが、かなり提案者の恣意が入ります。研究者は、実験結果を合わせる実験式を提案したがります。これには、三角関数、指数関数、対数関数などの高級関数を含むことがありますので、実務の数値計算に使うとき迷惑なことがあります。二次式または三次式までの代数式であれば、単純な電卓で計算できます。平方根を求める計算は、比較的需要が高いので、この関数を含む電卓も一般的な製品です。高級関数の計算には、少なくとも関数電卓が必要ですが、あまり一般的な道具ではありません。パソコンのアクセサリプログラムには入っています。しかし、パソコンが使えない環境ではお手上げです。現在 (2011)の道路橋示方書では、鋼柱の設計許容応力度の式は、細長比を三つの区間に分けてあります。細長比で0から約20までは一定値、そこから限界細長比までの短柱領域を直線式で単純化してあります。長柱領域は、式5.3をやや複雑にした式です。面倒なことは、鋼種違いと板厚違いも勘案するようになっています。理論上は、長柱の座屈応力度は、式5.2に示すように鋼種に関係しません。鋼種が同じでも板厚違いを考慮することの根拠は、材料試験で寸法効果が出ることを勘案したためであって、板厚が大きい場合には許容応力度を下げた式になっています。式の種類が多いことは、一見すると親切で厳密な提案ができると錯覚します。しかし、例えば、別の鋼種を使いたいときに、どのように応用すればよいかの提案ができません。また、設計応力の検証に使うときは、この許容応力度式にぴったりと合わせることもしません。そうであるならば、設計者の自由な判断を引き出すためには、もう少し大らかで単純化した実用式の提案が望まれるところです。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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