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5. 弾性的性質の数学モデル

5.3 線形弾性体として扱う柱と梁


5.3.2 柱と梁材に適した自然の高木

 木造住宅の柱や机の脚に見るように、圧縮力を受け持たせる柱は、高さに応じて幅と厚みを広くしないと曲げ剛性が不足します。杉や檜のような真っ直ぐに伸びる自然の高木(喬木)は、成長するにつれて相対的に幹が太くなりますので、力学的にバランスの取れた、長さの長い柱や梁として、そのまま使うことができます。ヨーロッパから西アジアでは、15世紀中ごろから17世紀中ごろまで続いた 大航海時代に、高さが必要な帆船のマスト材に適したレバノン杉が大量に伐採され、現在ではレバノンの一部にしか自生していないほど少なくなり、世界遺産に登録されるほど貴重な木材資源になってしまいました。一方、パイプ断面の竹は、細い径でも相対的に高さが高く育ちます。しかし、寸法選択の範囲が狭いので、汎用の構造材料には向きません。これら自然のままの材料は、曲げだけでなく、捻じれに対しても、そこそこの剛性があるので、梁または柱として実用になります。人工的に工夫した断面形は、材料を経済的に構成することを目的としますが、捻じれ剛性が小さいことが問題になることがあります。有史以前、世界的に見て豊かな森林資源を使った巨木文明がありました。ノアの箱舟、トロイの木馬の伝説は、木材が豊富に利用できたことを示唆しています。日本でも、出雲大社が巨木建築でした。奈良東大寺の大仏殿の建立(758)には、近畿一円の巨木があらかた使われてしまい、千年経った現在でも巨木の森林資源の回復がありません。火災で焼けた大仏殿の再建(1691)には巨大な横梁(大虹梁)2本が必要でしたが、元の寸法に使える巨木が見つからず、結果的に大仏殿の横幅寸法を2/3にしなければなりませんでした。伝統的な日本の住宅建築は、最小の加工にとどめた大きな寸法の大黒柱を使います。これが住宅全体の耐震性にも、実質的に大きな寄与をしています。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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