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5. 弾性的性質の数学モデル

5.1 線形弾性と非線形弾性


5.1.1 線形・非線形は数学用語であること

 材料力学で言う弾性の定義は、力が作用して変形しても、力を抜けば元に戻る性質の総称です。力と変形の関係を言うとき、一種類の力だけが作用し、その大きさが変化する場合を、最初に考えます。力と変形との関係が原点を通る直線式で表されるときが線形弾性です。しかし曲線を描くこともあります。これを非線形弾性と言いますが、塑性とは言いません。線形・非線形は、モデルを数学的に扱うときの性質を言う用語です。線形式は、一次式の特別な場合を言い、0の定義を持つことに注意します。力が0のとき、変形も0とする数学的約束です。一方、弾性・塑性は材料力学の用語です。弾性体に力を作用させて変形させることは、弾性体に仕事をすることです。この仕事は、弾性体の歪みエネルギーとなって弾性体内部に蓄積されて、一部は、熱エネルギーとなって弾性体の温度を上げます。熱が出ることは、摩擦によって熱が出ることと同質の、材料内部の内部摩擦によるものであって、理想的な弾性体は発熱しません。これを保存系ということがあります。それは、歪みエネルギーがポテンシャルエネルギー(位置のエネルギー)の性格があるためです。力を抜けば、その歪みエネルギーが解放されるのですが、内部摩擦があると温度を上げる方にも仕事をします。内部摩擦が有る材料を使って弾性範囲内で力と変形の関係をグラフに描かせると、正確に同じ道筋を往復するのではなく、幾らかのループを描きます。このループの面積分が外から加えた仕事が内部摩擦によってする仕事に使われ、温度を下げるのではなく、上げます。気体の圧縮と膨張の性質とは異なります。温度の影響は、普通、考えることをしませんが、鋼材の引張破断試験をすると、破断個所が熱を持つことを体験できます。力を伝える機械製品の運転中に、他よりも温度が高い部材があれば、経験的に何かの欠陥があると判断することもします。静力学では時間の要素を考えませんが、力を加えて変形が落ち着くまでに僅かですが時間差があります。弾性体内部を力が伝わる速さがあって、これが縦波、つまり、音として観察されます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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