剪断力は、物理学での摩擦力(friction)と同質の力です。摩擦を考えるときは、滑りを起こす具体的な面があります。平面だけでなく円柱面や球面のような曲面もあります。器械部品の回転ベアリングがそうです。普通の説明には、平らな斜面上に物を置いて、滑り落ちないときの静的な力の釣り合いを考えますが、物と斜面との接する面の大きさを考えません。したがって、接触面の単位面積当たりの力も考えません。剪断力の場合には、弾性体内部に「或る向きで仮想の滑り面」を仮定して、摩擦面に働く力と同じ扱いをします。ただし、面で接するのは同じ材料であって、それも連続した接触です。力としては、接触している面に沿って、単位面積当たりの応力度の方で扱い、或る範囲の剪断応力度の合力を考えるときが剪断力です。二種の材料が接している境界面での力を扱うとき、剪断力に代えて、しばしば摩擦力とも言います。物理学で摩擦力を扱うときは、接触面に圧縮力を作用させる必要があります。応用力学の用語では支圧応力(bearing)と言います。剪断面を考えるとき、その面に垂直に働く内力は、圧縮力だけでなく、引張力の場合もあります。引張力は、その面で材料が剥(は)がれないように接続を保持する内力ですので、付着応力(bond)と言うことがあります。接着材(固まる前は剤と使います)を使って物を貼り合わせるとき、接着強度は、接触面の剪断強度の方を言います。しかし、接着材本体に引張強度がないと、簡単に剥がれます。そのため、接着材本体の材料力学的な性質は、純剪断強度と単純な引張強度の大きさが、ほぼ等しくなります。コンクリート材料は、セメントペーストが骨材(砂利や砂)に対して接着材となって構成される材料です。コンクリート材料は、剪断強度と引張強度がほぼ同じ大きさになりますので、このことを考えて構造設計に応用します。
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