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1. 引張材と圧縮材

1.1 単一部材の引張りと圧縮


1.1.4 破壊の始まりを知っておくこと

 フックの法則は、精密な材料試験をすればするほど、法則が成り立つ範囲が狭くなります。微小の範囲は数学的な概念ですので、実際にどの程度であるかは実用的に判断します。材料は、力が作用して変形しても、力を抜けば元に戻る範囲で使います。線形式からそれる性質を考えるときが、非線形です。細い弾性的な針金は、大きな曲げ変形を示しますので、力と変形との関係は曲線を描きますが、力を抜けば元に戻ります。曲線になる性質の内、後の第9章で説明する塑性とは違います。材料が塑性的に振る舞うときは破壊の始まりと見ます。まだ破壊ではありません。この始まり位置を弾性限界と言います。鋼材では降伏点(yield point)とも言います。鋼材料では、降伏点の応力度を弾性限界とも、また、比例限界とも言います。強度の高い鋼材は降伏点に近づくと、非線形の弾性的な性質が見られ、実験的に観察すると、降伏点がはっきりと分からないことがあります。そのため、降伏点に相当する応力度の目安として、歪みの大きさで、例えば0.3% 限界、などのように言うことがあります。金属材料の破断は明らかな破壊です。崩壊とも言えます。軟鋼は、塑性的な加工変形をさせて別の連続体の形状にしても強度に期待して使うことができる性質があることに特徴があります。したがって、降伏点、弾性限界、比例限界の区別は、曖昧なところがあります。技術的な判断を必要とする設計の課題では、材料が塑性的な性質を示すところが破壊の始まりです。その表れ方は、材料の形状や応力度の分布などと関連します。これが材料力学の課題です。しかし、鋼材などは、同じ材料であっても、加工の履歴次第で降伏点が異なる場合があります。材料学と言うときは、材料違いの方の知識を扱うと考えるとよいでしょう。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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