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5. オブジェクト指向データベース

5.1 何をしたいかの問題意識


5.1.3 橋梁資料のデータベース化の試み

 筆者が専門の一つとしている橋梁工学分野の専門家は、一つの技術集団を構成しています。その理由は、設計から架設まで、安全と危険とに向き合うからです。橋梁は図体が大きく、また費用も嵩みます。試しに作ってみて、具合が悪ければ作り直すという、試行錯誤ができません。設計は、意匠的なデザインも重要ですが、力学計算で安全性を確かめる作業が不可欠ですので、数学の学力も必要です。橋梁が完成した後でも、荷重の通行の段階で支障が起きることがあります。そのため、既に完成して安全に利用されている橋梁のデータを参考にする調査が重要です。この情報をデータベース化したいとする要望も自然です。また、一般の人にも向けて、そのデータベースを利用して知的好奇心を満たすことにも、また、教育用資料として利用することもできます。多くの研究者は、その作業を個人ベースで行ってきました。一般的な興味は、どうしても有名な橋梁を恣意的に選択する方に偏ります。網羅的な作業は、藤井郁夫氏が、個人的に努力してEXCELにまとめた大部の資料が、現状では最も充実したソースです。その CD-ROM(1995)は、土木学会で閲覧できます。この作業の時代は、まだデジタルカメラが一般化していなかったこともあって、写真や図面などを除き、主に文献資料をソースとして、そこから得られた橋の情報、つまり、橋梁名・架設位置・完成年・橋長・支間・形式などを集めた資料です。データベースの一次資料は、書籍や文献を対象とするのですが、橋梁実体のデータを構築したいときは、オブジェクト指向データベースの、オブジェクト(対象)を、橋梁と書き換えることを意味します。これは、個人情報を集めてデータベースに作成する方法と似た構造になる、と説明すれば納得できると思います。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2011」

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