目次ページ; 前のページ; 次のページ

2. 実用文書の三要素

・実用文書の三つの要素は、文章、書式、体裁です
 実用文書を作ることには三つの要素があります。第一は、正しい文章が書けること、第二が文書の書式、第三が全体としての体裁です。この三つの要素は相互に関連していますが、話の内容を整理するためのキーワードとして選びました。文書を作るときには多くの人手を経ますが、基本的な作業は上の三つそれぞれに別の人が当たります。文章の原稿を書く人、それを決められた書式に編集する人、そして、体裁を整えて印刷製本を担当する人です。ワードプロセッサなどが無かった時代、原稿と言えば、400字詰めの原稿用紙に文章を書くことが作文でした。この原稿を編集者の所に持ち込めば、残りの作業はそれぞれの専門家が処理してくれました。そのため、普通の人は書式とか体裁については漠然とした知識しかなくても困りませんでした。従来の作文指導は、このような作業環境を前提としていることを理解しておかなければなりません。ワードプロセッサが使えるようになって、小部数の簡単な文書は自分で作成できるようになりましたが、それは第二、第三の作業も自分でできるようになったことを意味します。そうなると、いままでは専門家がしていた作業に関わることになりますので、特殊な専門用語を覚え、ワードプロセッサの操作に慣れ、パソコンを使うことに悪戦苦闘するようになってしまいました。

・日本語では、話し言葉と書き言葉との違いが大きかった
 話の始として、伝統的な原稿作成に関わる段階である第一要素の文章について簡単に解説します。実用文書の文章は、言葉を正しく使い、要点を簡潔明瞭に表現しなければなりません。これは口頭で用件を伝えるときにも当てはまります。日本語では、話し言葉と書き言葉との違いが大きかったので、書く作法と話す作法とがうまく噛み合わないところがあります。書き言葉の文体としては、口語体・文語体・漢文体、などの区別がありますので、言文一致の努力が明治以降ずっとなされてきました。日本語では同音異義語が多いこともあって、眼で文字を見ながら意味を確認する傾向が強く、話し言葉で情報を伝える技術と整合しないところがあります。英語でも話し言葉と書き言葉の違いはありますが、日本語ほどに大きな違いがありませんので、話した言葉をそのまま文書に落として利用することが日常的に行なわれています。そのため、口述筆記(dictation)と速記(shorthand)は秘書の技能として必要とされています。

・実用文書の内容には5W1Hが必要
 実用文書では、個人的な感情や本人が感覚的に理解したり、心で思ったことを省き、文学的な表現を抑え、伝えたい具体的な項目に落ちがないようにします。その項目を、英語では5W1Hで表します。昔の軍隊では「いつ、どこで、だれが、なにを、どうした」と報告する訓練をしていました。これに「なぜ、どうやって」を加えると5W1H(what, when, where, who, why, how)に対応します。作文教育で、文章作法を書いた多くの書物では起承転結の構成を一種の法則のように主張しますが、実用文書に応用するときには注意が必要です。それは、「転」のところの扱いです。今までの論理の流れから、それるような構成に成り易いからです。「転」を省いた起承結の三段落構成は「まえがき・本論・結論」のように筋の通った良い構成になります。書いた文章が良い文章であると判断するときに使う基準は、一般論で言えば、誤字・宛て字が無いこと、特殊な用語や言葉遣いがないこと、主語述語の構成が正しく、文章に捩れがないこと、などです。日本語は英語に比べると文法が少し曖昧なところがありますが、英語に翻訳し難い文章は原則として論理的な構成から見ると悪文になります。文章を直すことを添削といいます。また、用語を吟味することを推敲と言います。これには個人の主観が入りますので、客観的な基準を決める必要があります。後の章でこれらの問題を具体的に吟味します。


前のページ; 次のページ