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4. 画像を含める印刷

4.1 同じものを複数部数作る技術


4.1.3 浮世絵や絵葉書は歴史を切り取った資料

 版画の技法を使った部数の多い浮世絵や錦絵は、その時々の社会情勢を紹介する情報誌の性格がありました。文明開化によって欧米から導入した工業技術のうち、象徴的なものが鉄道でした。とりわけ、新橋と横浜を結ぶ鉄道に関連した図柄が多く採用されました。これらは、芸術作品としての評価と共に、技術史としての価値があります。鉄道に関連した橋梁技術も眼を引く画題です。日本だけでなく、欧米でも同じように、画家が好んで画題にしました。筆者は、「画家が描いた橋」として画像データベースの発表を計画しています。橋梁を始めとして、近代化は、街中の景観を大きく変化させました。架け替えられた橋や撤去された橋の以前の景観が、画家の作品として残っているのは貴重な技術史資料です。この、興味を向ける視点が広くなって、各地の名所旧跡や景観を紹介する絵葉書が制作されるようになりました。景観を写したモノクロ写真は、正確な状況を記録できます。筆者は、ドイツ人のペンフレンドと交流していて、橋を直接・間接に持つ図柄の郵便切手の交換をしています。戦前発行された、主にベルリンの絵葉書のコピーを送って、そこに写っている橋の情報を尋ねました。カラーによる絵葉書はありませんでした。第二次世界大戦時の爆撃で破壊され、ほとんど実在していない、との返事でした。もともと日本の浮世絵はカラー版でしたので、日本の絵葉書も、カラーで印刷したものの方が好まれました。戦前、日本ではカラー版の絵葉書が多く売られていましたが、その制作にはかなりの手間と経費とが必要だったのです。絵葉書は、その時代、その場所の歴史や情報を切り取ることになって、今で言う「5W1H」の内容があります。現代では、浮世絵をA6版大の絵葉書で再現したものが、やや大きな書店で売られています。著作権に気を遣う必要がないことも利点です。これらの絵葉書は、国内の観光案内にも使えますが、主に、外国人向けです。その流れを受けて、常設または臨時に画家の作品が展示される場所で、作品紹介の画集や絵葉書も見られることがあります。これらの画像資料は限定的な発売です。一般の書店では扱いません。筆者は、画家の展示会が、開かれている場合、橋を含む作品に焦点をしぼって、画集や絵葉書を集めてきました。これらは、教育用資料としてまとめてきましたが、一般の人に参加してもらって、インターネットを介して公開して利用することを提案したいと思っています。

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