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4. 製図教育の視点

4.2 常識的な習慣と規格化


4.2.1 標準には私的なものと公的なものとがある

 何かの産業活動をする複数の企業体相互には、当事者同士で対象物の理解と管理に、共通の仕様(スペック:specification)を提案することが必要です。それを文書化して契約(contract)を交わします。図面はその文書の構成要素です。それを作成する製図法は、対象物の専門に関係します。専門が異なると、製図法にも固有の習慣が使われます。標準的な習慣があって、それを相互に認めれば、改めて詳細契約文書に含めることをしません。常識としている習慣があるときは、言わば不文律の扱いをして、それを表に現しません。これが時として問題になります。とりわけ、言語や宗教など、国際間で習慣が異なるときです。企業体は、企業独自の基準を作成し、非公式ながら内部標準として利用することがあります。デファクト標準(de facto standard)とは、企業が私的に定めた標準が広く使われるものです。特許や登録などで囲いこんで、他の企業での利用に制限を加えると、戦略として他の企業体よりも優位に立つことができます。これに対して、公的な機関であるJISやISOで規格化を提案するものを、デジュール標準(de jure standard)と言い、独占による制限は無くなります。工業技術全体は、専門分化が多種類に渡りますので、JISに明文化されている規格の種類は、企業活動全体の中で見れば僅かです。土木学会が提案している土木製図基準は、性格としては、製図と言う狭い分野についてのデファクト標準です。この中に、デジュール標準のJIS規格を採用し、足りない部分、また土木技術固有の条件などを追加したものです。土木製図基準全部をJIS化することは、実践的には問題が多すぎて不可能です。したがって、例えば、鋼構造、コンクリート構造など、幾つかの個別の専門分野に分けて製図方法の標準を追加提案しています。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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