勾配と尺度を表すときは、数学式ならば割り算を意味した分数で書きます。文章で割り算を表現するとき、2行にまたがる分数表記を一行にするため、分子単位と分母単位とを分かるようにして、その間に区切り記号(delimiter)を使います。例えば3/7のようにします。日本では、/(スラッシュ)を使うと、割り算の分数表示の横棒を詰めたもの、と普通は解釈します。ところが、欧米では、必ずしも/記号が割り算記号であると、一意には解釈されないことに注意します。場面に応じて、「3または7」、「3から7まで」「7つある内の3番目」のような意味を当てます。割り算を意味する分数表示(3/7)を声に出すときは、英語では「three over seven」のように言います。ところが、日本語では「7分の3」の言い方をしますので、分子・分母の並び順と逆です。英語で割り算(A割るB)を言う時は二通りあります。「divide A by B」と「divide B into A」です。後者の言い方は日本人には馴染みが薄いのですが、日本語では「BをAで区切る」に当たる言い方です。 算術の割り算記号(÷)は、日本独自の数学の記号文字であって、JISにはありますがISOには定義がありません。加えて、欧米では、日付の書き順でスラッシュの使い方に混乱があります。例えば01/04/2011は、ヨーロッパでは2011年4月1日ですが、アメリカでは2011年1月4日と解釈されます。日本では、11/01/04と書くと年月日の順と解釈しますが、年について西暦と平成どちらであるかの区別ができません。コンピュータを利用する文書では、2001/04/11の書き順が時系列検索の大小順と整合します。区切り符号に/以外の使い方、例えば2001.04.11、2011-04-11、2011:04:11の書き方も実用されています。文章表現で割り算の積りで区切り符号にスラッシュを使うと、数学的な割り算の意義が薄れます。コロン(:)の方が文章表記では比率を表す記号として普通に使い、割り算の意味にも使います。このような事情がありますので、勾配と尺度の記号表記は、ISOではコロン(:)を当てます。日本のJIS基準もそれに合わせました。
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