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2. 作図と製図

2.4 幾何学と座標系


2.4.1 幾何と代数とは別の学問体系であったこと

 幾何学(geometry)の原義は、地形(geo)を測る(metry)です。この歴史は紀元前300年頃のユークリッド(Euclid)以前にまで遡ります。幾何学に代数学的な解析方法を応用するようになったのは、デカルト(Des-Cartes,1596-1650)に始まるとされています。代数学を応用するには、図形の幾何学的な性質を数で表すことが必要です。ここで考える数の代表が、長さです。長さは、或る基準点を決めて、そこからの寸法で言います。この手続きは、最も単純な線座標系(line coordinate system)使っています。二次元図形、さらには立体図形の寸法を表す場合には、平面座標系立体座標系などを使い分けます。デカルト座標系の約束は、右手系の直交座標系です。英語は、right-handed Cartesian coordinate systemです。代数学的には、座標軸の記号に(x,y,z)を当て、水平面を(x,y)と使い、高さ方向をz軸とします。座標軸の正の向きを、右手の親指・人差指・中指の示す向きの順に合わせる約束ですので、右手系と言います。座標系を使って幾何の問題を扱うことを座標幾何学(coordinate geometry)と言います。解析的な手法も応用できますので、解析幾何学(analytical geometry)とも言い、幾何学も数学の大分野に含めるようになりました。戦前の中学校では、幾何と代数とは別教科の扱いをしていました。初等幾何学は、図形の性質の説明に、文章を主とした論理学的な手法を利用します。そのこともあって、生徒の側では、好き嫌いがはっきり分かれる学科でした。幾何学は、構造物の設計で重要な実用的な学問です。土木・建築工学では測量学(land surveying)として必修学科の位置づけです。測量器材が便利になりましたので、幾何学や測量学の素養が無くても、不便を感じなくなりました。昔の大工さんは、建物の向きを正確に東西南北に揃え、また夏冬の太陽の高さを考えて、屋根の庇の長さや窓の高さなどを決めていました。測量の知識に疎いデザイナが、構造物の見取り図に、太陽光による陰影を思い付きで描き加えると、南北を間違える失敗をする例があります。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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