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2. 作図と製図

2.1 図を描く技術


2.1.3 図面は利用目的に合わせて作成する

 製図、正確に言えば工業製図(technical drawingまたはengineering drawing)は、工業用の図面を作成する作業を言います。ここで言う図面は、図を主題に描いた用紙を指します。図面の特徴は、第一に、寸法の大きな用紙を使うことです。室内作業で他の書類と共に扱うときは、管理用に、縮小した版を別に使うこともします。第二に、現場に持ち出して広げて見る使い方もします。これに関連して、大版の図面用紙の折り方や綴じ方を、解説に含ませることもしていました。第三に、図面は、管理を目的として長期の保存を考えたアーカイブ扱いを考えます。その方法としてマイクロフイルムに撮影するための注意事項を、規則に謳っています。書物などに使う図の作成に当たる人を一般にイラストレータ(illustrator)と言います。工業製品では、個性的な美的形状のアイディアを描く人を、デザイナ(designer)と呼んで尊敬します。こちらは、色彩設計を含む意義もありますので、デザインの用語を使うのですが、日本語の熟語では意匠設計が当たります。現実の設計作業は、全体設計をエンジニア(engineer:技術者)が当たります。一つの理想的な体制は、エンジニアとデザイナとの協力です。これに対して芸術家(アーティスト:artist)は、ほとんど独りで想像から制作までをこなし、ここで言う図面に当たるものを作成しません。それに代わる下書き的な図を、絵画や彫刻では素描と言い、フランス語に原義を持つデッサン(dessin)が日本語として定着しました。デッサンは黒の鉛筆などで描くのに対して、映画産業では色クレヨンを使う素描を絵コンテと言います。図をきれいに描く技術は、才能に恵まれることも助けになります。工業図面の作成者は、専門ごとに固有の製図法の知識を踏まえ、経験を積む必要があります。作図の専門家(specialist)を図工と言い、設計者は、立体的な形状の情報を図工に渡して製図してもらう分業体制も取ります。この事もあって、工業図面の表題欄には、設計者と共に作図者の署名欄を設け、著作権の主張に使います。しかし、絵画とは異なる性格がありますので、日本では管理者側の名前を表に出すことが多く見られます。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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