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1. 土木製図基準制定と改訂の経緯

1.3 日本語の問題


1.3.2 日本語には命令文の形がないこと

 法律や規格は、海外の同種のものとの相互翻訳をして利用するとき、内容の整合性と相違性が分かる書き方の約束が必要です。英語と日本語との構文上の主な相違は、主語・動詞・目的語( S.V.O)の語順違いと、動詞の使い方にあります。中でも深刻な問題は、日本語には明確な命令文の形がないことです。漢文調では命令と禁止とに「べし(可)・べからず(不可)」を使います。話し言葉で書く文章形式を文章口語体と言うのですが、可・不可の言い方に定形がありません。日本語の動詞の活用には命令形があります。しかし、規格では、動詞の終止形を使って、例えば「尺度は次のように表す」と書きます。意味は「表しなさい」と解釈させます。さらに、主語を表すように使う「尺度は」は、目的語の「尺度を」の意義です。「は」を主語に立てる意味に取ると、動詞の意義は「表している」になります。さらに言えば、「表す」で文を止めると、ぶっきら棒ですし、何となく頼りないと思うので、「…するものとする」「…することとする」の書き方が支持されることがあります。この言い方は、英語の関係代名詞を持つ文を翻訳するときに出てくる構文に原点があるようです。文章を文字の並びだけで意味を解析することを字面(じずら)解析と言います。これは、日本語を英語に翻訳するとき、特にコンピュータを介して自動翻訳を設計するときに重要です。コンピュータは感性がありません。人ならば判断できるレトリックは、間違って翻訳されます。コンピュータは感覚(五感)も感情(喜怒哀楽)もありませんので、定量化して表せない副詞と形容詞を使う場面はありません。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」

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