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1. 土木製図基準制定と改訂の経緯

1.2 標準化の基本的な考え方


1.2.2 投影法はISOでも統一規格の提案にならなかった

 工業製図は、立体的な対象物を表すとき、基本的には複数の方向から見た投影図を組みにします。投影は、三次元の立体図形を二次元の平面図形に変換することです。幾何学的には次元数が下がり、奥行き情報が失われます。円柱、円錐、直方体など、幾何学的に単純な立体形状は、一つの投影図を使うことができますが、この場合には高さや奥行き寸法などを言葉で補います。二つの投影図を組みにして使うとき、その相互の位置関係の決め方に、第一角法と第三角法の区別があります。投影の向きを言葉(平面図、正面図など)や記号と矢印を使って説明すれば、この区別にこだわる必要がありません。そうしないときの約束が、この区別です。前者はヨーロッパ圏で使われ、後者は日本とアメリカで使われています。第一角法は、モンジュ (G.Monge; 1746-1818)が始めた投影理論を踏まえていますので、歴史的にはヨーロッパで採用されています。この方法は、高さのある構造物(土木・建築・船舶など)の一般図では、正面図と平面図の配置の釣合が良く、誤って理解されることも少ないので実践的に利用されています。しかし、日本では第三角法を正規の規格としていますので、規則に違反するとして、しばしば論争になります。投影法は、それぞれに専門ごとの習慣の積み重ねがありますので、どちらか一方に決めることには、折り合いが付かないことも起こります。ISOで製図規格を決める会議の場でも、この生臭い論争が引き継がれていました。このため、どちらの投影法を主に使っているかが分かるように図面上で宣言することで妥協が図られ、結果として第一角法と第三角法との両方を認めることになりました。
科学書刊株式会社:電子版 「橋梁&都市 PROJECT: 2012」T

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