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21. 代数学的図形の計量と作図

21.4 時系列データの変換


21.4.6 スペクトルの物理的意義を理解すること

 構造物の卓越振動数は、振動測定データをスペクトル解析すれば容易に得られるようになりました。興味のある結果も多く得られますが、もう一歩踏み込んで、対象構造物の力学的特性と解析結果との因果関係についての議論を深めたいと思います。その始めは、数値計算で得られるスペクトルの工学的な解釈法です。いま、時系列が電気信号(電圧V)で測定される場合、電気・電子工学的に見ると、その電気現象のエネルギー(ワットW)は、電圧と電流(I)の積です。回路の抵抗が一定であれば、電気エネルギーは電圧の二乗に比例しますので、測定データの時間的な二乗平均値は平均的な電気エネルギーに比例します。電圧信号をフーリエ解析して、周波数別の電圧レベルをスペクトルで表すときは、正弦成分と余弦成分とを合成して位相角の性質を捨象します。このようにして描くスペクトルをフーリエスペクトルと言います。この計算のとき、成分の二乗和とルートに開く計算をしますので、ルート計算を省いて、二乗和のままで使う方をパワースペクトルと言います。パワーは電力、つまりエネルギーの意義です。これらをグラフに表すとき、縦軸を対数尺にすれば、フーリエスペクトルとパワースペクトルとが相似になる便利さがあります。パワースペクトルの縦軸を線形尺度で描くと、このグラフの全面積は、事象全体のエネルギーを表します。そして、個別の周波数別の高さは、周波数別のエネルギー密度を意味します。さらに言うと、元の事象が確率過程であるとすると、パワースペクトルのグラフは、周波数別エネルギーの確率密度のグラフを表します。もともと、単独にスペクトルと言うと、一般には分光スペクトルと理解しますので、尖鋭な固有振動数を持った事象の集合を考えます。しかし、構造物の振動の場合には、理論的に予測される固有振動数があっても、固有振動数の前後で揺れを伴う卓越振動数として測定され、それも出たり出なかったりします。つまり、確率的な性質があります。
2009.9 橋梁&都市PROJECT

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