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20. ズレを扱う幾何学

20.3 円弧スベリの解析


20.3.2 円弧スベリの幾何モデル

図20.1 円弧スベリ:グラフィックスに説明を書き加えてあります。
 円弧スベリは破壊ですので、確率的な性質があり、スベリ破壊の場所を一意に予測し、その通りに発現する現象ではありません。紙や鉄板の裁断は、破壊の環境を整え、一意に結果がでるように制御した処理です。したがって、円弧スベリは、経験的な知見を幾つかの仮定に集約して問題を単純化することから始めます(図20.1)。傾斜した地表面は、半無限の連続体の外形を表し、多角形で表します。スベリは円弧に沿って起こるとしますが、最初の幾何計算は多角形と円との交点を決めます。この位置は、スベリ面の始点XRと終点XLですが、経験的に判断して決めます。円は、始点と終点とを結ぶ直線を弦とする条件で、円の半径Rを決め、円の中心位置XCを弦の垂直二等分線上に求めます。円で切り取る斜面部分の重量を計算するため、始点と終点x座標を等分割した短冊状の図形の高さを求めます。これは、円とy軸に平行な直線との交点計算になります。短冊状の土の重量は、円との接触部分のスベリ面で傾斜を持ちますので、傾斜に沿った力の水平方向成分がズレを起こす剪断力です。短冊上の土全体について、円弧に沿った剪断力の合計Sと、重量による摩擦の拘束力Wとを比較します。W/Sが1より大きければスベリは起きないので、この値を安全率として斜面安定を判断するパラメータとします。この計算は、初等幾何学での基本的な作図法を応用しますので、計算原理は明確です。しかし、最初の三つのパラメータXR、XL、Rは恣意的な決定事項ですので、これを種々に変えて計算結果を比較しなければなりません。手計算が主であった時代は、繰り返しの試行計算に手間が掛かりました。コンピュータを使えば、繰り返し計算が簡単にできるようにプログラミングを工夫することができるようになりました。
2009.8 橋梁&都市PROJECT

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