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20. ズレを扱う幾何学

20.2 切断と剪断


20.2.2 体積変化が無い剪断変形を考える

 最も理解し易い剪断変形は、マッチ箱をつぶすように、矩形が平行四辺形になる変形です。例えば、超高層ビルが地震を受けて、階ごとに水平方向に揺れるときの全体変形です。この変形は、ビル幅全体の曲げ変形とは別です。四角形単位の対角線の長さは、一方が伸び、他方が縮みます。耐震補強をしたビルには、階単位にX形の筋交いを入れるのを見ますが、これが剪断変形を抑える部材です。一方、積み木を積み上げたような構造では、上下が相対的に辷る変形をします。ビル骨組みの剪断変形では、骨組み間に隙間がありますので、矩形が平行四辺形になり、大きく変形するとペシャンコにつぶれます。積み木のズレは、全体としてみれば、面積または体積の変化がありません。弾性的な連続体の変形は二種類です。全体が膨張または収縮して体積が変化する変形と、体積が変化しない変形とがあって、後者が剪断変形です。連続体の構成粒子間に相対的な位置の拘束があるときは、復元可能な弾性変形扱いですが、面上下の位置関係が大きくズレルことと区別します。材料を原子レベルのミクロ粒子で見るとき、一回の塑性変形のズレは、隣り合う粒子間の距離単位の転位であって、金属材料の塑性変形を説明するモデルです。粒子間を結合する力が保存されないと、微小な破壊、つまり亀裂ができます。この微小亀裂が一続きに並ぶと、全体として大きなスベリが起こるか、亀裂が眼に見えるように口を空けます。これが材料の破壊です。眼に見える材料破壊の前段階として、微小な亀裂が材料内部に発生して引張強度が無くなっていても、摩擦が効いて、全体の形が保存されている状態があります。これが物騒な状態であって、何かのきっかけで、短い時間に破断か大きなズレを起こす原因になります。地震は、地殻深部でズレが短時間で起こる現象です。このズレが地表で見られるのが断層です。
2009.8 橋梁&都市PROJECT

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