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20. ズレを扱う幾何学

20.2 切断と剪断


20.2.1 切断と剪断の区別を理解する

 物を意図的に壊す、元に戻らない変形操作に「切る」があります。日本語では、紙や木を「切る」とだけ言いますが、漢字には「剪」もあり、英語もcutとshearとを使い分けます。針金を引っ張って切ることに較べて、鋏で切るのは小さな力で済みます。鋏はscissorsです。切る原理は「剪」であって、shearと同根の言葉のようです。切る道具としての小刀は一枚刃ですが、鋏は二枚刃です。これを受けて、scissorsも複数形です。紙を切る道具のカッターは、刃が一つと錯覚しますが、形の違う刃が台側にあります。薄い紙を机に載せて定木で抑え、破く操作をしますが、これも「剪」です。普通、切と剪の区別をしません。大きな鉄板を切るとき、ガスで溶かして切ることのほかに、プレスと大型カッターを組み合わせて裁断加工をする装置があります。鉄鋼材料を供給する会社には、しばしば「何々シャーリング」の名前を見ます。パンチによる丸い穴あけは、片方の刃を円形、他方が円形の穴です。幅広の板を一度に裁断するには大きな力が必要ですので、板の端から、言わば、破くように切ります。切る前に、互い違いに刃を当てる前段階があり、芯をズラした対(つい)の力を作用させます。ズレが大きいと、対の力はモーメントの作用になり、切れが悪くなります。しかし、意図的に隙間を空けて変形させる、絞り(しぼり)と言う加工方法があります。弾性体の力学では、切れてしまうと破壊ですので、剪断変形が残る前段階の解析をします。材料力学を勉強するとき、剪断応力と剪断歪みを理解することが一つの難関です。
2009.8 橋梁&都市PROJECT

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