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20. ズレを扱う幾何学

20.1 地すべりと山崩れ


20.1.4 破壊の幾何学的な解釈を考える

 塑性体は、小さな力が作用する範囲では弾性体の性質を示します。粒と粒とを繋ぐトラスモデルで考えると、ある程度以上の力の作用で、辺の接続が変るか、接続が切れます。辺の接続が変ると考えるのが金属の塑性加工です。しかし、岩石のようなもろい(脆い)材料は、辺の接続が切れる方向だけであって、辺の再構築を考えません。これが材料内部でのミクロの破壊です。砂や砂利は、全体がミクロの破壊の結果でできた、互いに引張拘束のない、摩擦だけで釣合っている粒の集合です。マクロに見るときは粉体または粉粒体とします。流体のような性質を持つこともありますが、通常は粒間の摩擦が効いて、自由な移動ができませんので、安定した連続体状の外形を示します。乾いた砂や砂利は、自然に積み上げると、或る最大勾配を持った斜面で釣合います。この角度を安息角と言い、これより急斜面にしようとしても側面から崩れます。これが山崩れのモデルです。粒と粒との間に粘着力があると、簡単な造形ができます。海岸の砂遊びをするとき、適度な水分があると、水の表面張力が効いて、垂直な面を構成することもできます。粘着力があると、或る部分的な塊が、まとまって貝殻面状にすべる(辷る)破壊が見られます。これが小規模な地すべり、大規模な現象が、地震のときの断層です。地すべりと山崩れは、災害科学の用語です。現象をどのように区別するかが分ると思います。土は、力学的に見ると、非常に特殊な塑性材料です。土を耕すと(土質工学では乱すと言います)、砂のような粉粒体の性質になりますが、締め固めると弾性的な性質を回復します。コンクリート材料や金属材料は、疲労が蓄積すると、最後は引張強度を失うのですが、土材料は疲労の回復がある材料です。土構造物は、工事からしばらくの間は粘着力が低くなって、圧密変形・斜面の崩れ・すべり破壊などを起こすことがあります。土は、簡単な数学モデルを考え難いので、理論研究者は敬遠する嫌いがあります。しかし、見方を変えれば、研究対象としては、非常に興味を引く連続体モデルです。
2009.8 橋梁&都市PROJECT

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