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20. ズレを扱う幾何学

20.1 地すべりと山崩れ


20.1.1 最初は元に戻ることができる変形

 少し物騒な表題をあげましたが、この章の話題は、幾何学的な視点で破壊力学の説明をすることであって、前章の説明の続きです。前章では、構造物の設計に関連して、形と変形を幾何学的に、かつ数学的に扱うときの条件を幾つか解説しました。その前提となる一つの大きな仮定は、骨組みに構成する注目点の、位相幾何学的に見た相対的な位置関係が変わらないとすることです。点の位置は幾何学的な概念ですので、実体を考えるときは、寸法を持った粒状の集合で置き換えます。そうすると、全体として或る体積を持ち、適度な隙間があって、隙間の間隔が変わることで体積変化も考えることができます。隙間に粒と粒とを結ぶ実体のある辺があるとした骨組みモデルは、辺の長さの変化が、変形と同時に体積変化に対応します。小学校教育で、豆に竹ひごを刺した骨組みモデルの工作をすることがあります。分子構造を骨組みモデルで作成する教材も売られています。前章で解説した骨組みモデルは、辺を繋ぎ変えることを考えませんでした。或る条件のもとに変形を予測する、または、意図したように変形を制御するトラスモデルは、辺に弾性体の数学モデルを考えました。数学モデルは実体を抽象化して再現性があるようにしますので、理屈の上からは。変形の変換と逆変換とを計算することができます。しかし、物が壊れるのは再現性の無い現象ですし、確率的な性質もありますので、解析的に美しく見える数学理論にこだわる研究者は、敬遠する課題です。
2009.8 橋梁&都市PROJECT

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