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19. 変形を扱う幾何学

19.4 橋梁工学固有の問題


19.4.1 変形の計算が重要であること

 建築のデザインと比較すると、橋梁は空間を渡す造形であると同時に、大きな移動荷重に耐え、大きな変形もしない丈夫さが必要です。欧米には、高さの高い教会建築があります。実は、建設に成功したのが現存しているのであって、建設時に崩壊した事例も多いそうです。しかし、その記録は殆んど残されていません。建築の構造計算は、主として自重のような静的な荷重を考えればよいのですが、橋梁となると、完成後、鉄道橋に載る蒸気機関車のように、大きな動的な荷重を受けますので、崩壊リスクの大きな構造物です。試しに造ってみて、具合が悪ければ造り直す、などの方法を取ることができません。橋梁の技術者は、デザイン的な造形に加えて、この計算部分に興味を持ち、完成したときに無類の充足感を持ちます。橋梁は、建築構造と比較すると、静的にも動的にも大きな変形が出ます。その変形は、全体形状から見れば十分に小さい範囲に抑えますので、実用的には微小変形理論を仮定します。例えば、トラス橋は、荷重が載った状態と載らない状態とは形状が少し変ります。厳密に考えると、変形した状態で力の釣合いを考えなければなりません。しかし、変形が小さいと仮定したトラスの幾何学的形状は、荷重の作用前後で力の向きの変化が無いとして力の釣合いを計算し、変形分を加算します。トラス部材の長さが変化するとして、全体形状の変化を幾何学的に追いかける計算と、エネルギー法のような力学原理で計算するのとの差は、微小変形を仮定できる範囲では実用的には同じです。
2009.7 橋梁&都市PROJECT

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